ニューサウスウェールズ州のワイン産地ハンターヴァレーへ。
ゆったり過ごす一泊二日の旅で2軒のセラードアを訪問し、美味しいワインを見つけてきました。
旅の概要はこちらです。
Thomas Wines
到着日の夕方に訪問したのは、ハンターヴァレートップワイナリーのひとつトーマス・ワインズです。ハンターヴァレーの二大ブドウであるセミヨンとシラーズに焦点を絞り、さらにシングル・ヴィンヤードにこだわって畑名ワインも生産するブルゴーニュスタイルの生産者。
広々と高級感のあるセラードアに入ると、ワインメーカーのアンドリュー・トーマスさんが両手を広げて歓迎しています。
私たちは、セミヨン5種とシラーズ8種、計13種類のワインがティスティングできる一人20ドルのコースを事前に予約。最初に「全部飲まなくていいからね!」と言われるのですが、もちろん全部飲み干します。
まずはセミヨン
トーマス・ワインズはセミヨンの畑を3つ所有しています。3つの中で最も高品質とされているのがブラエモアという畑です。1969年に初めてセミヨンが植えられたブラエモアは、古代は海底だったそう。フレッシュさと長期熟成のポテンシャルを兼ね備える素晴らしいセミヨンが生まれる土地です。
最初に飲んだシナジーセミヨンは、セミヨンのベンチマークとなる一本です。通常時は所有する3つの畑のセミヨンをブレンドして造られますが、2020年は山火事の煙の影響で2つの畑からの収穫が出来ず、一番良い畑ブラエモアのブドウのみが用いられました。
シナジーセミヨンが22ドルなのに対し、畑名のブラエモアセミヨンは35ドル。(ブラエモア セミヨン2020は既に完売。)2020年はどちらもブラエモアのブドウなのに、シナジーセミヨンはかなりのお得感があります。
と、消費者からすると嬉しいお話でもあるけれど、畑を見学してぎっしり実ったセミヨンの美しさに感動した私は、昨年ワインになれなかったブドウたちはどうなってしまったのかと悲しくなりました。
シナジーセミヨンのお味はと言うと、想像してみてください。太陽がカンカン照りの真夏、「暑い!暑い!」と言いながらブドウ畑を横目に歩き、ワインの香りで溢れるセラードアに到着して最初に飲む一杯。冷え冷えのワインから感じるきゅっと引き締まった酸と、イエローネクタリンにレモンをたっぷりかけたみたいなフルーツの味。あのセミヨンを一口飲んだ時の触感はしばらく忘れないと思います。
その後の夕食時にいただいた生牡蠣とシナジーセミヨンの組み合わせもパーフェクト。生牡蠣と白ワインってシンプルに見えて難しく、時々生臭さを感じてしまうこともあるのですが、このピュアなセミヨンは完璧にレモンの役割を果たしてくれました。
残念ながら2020年のブラエモアセミヨンは完売とのことで、2013年のセラーリザーヴ ブラエモアセミヨンをいただきました。セラーにて7年間の熟成を経てリリースされたセミヨンは、どれだけの変貌を遂げたのかと思っていたらちょっとびっくり。まだまだグリーンな香りもするし酸もすごく豊か、ほんのりハチミツのニュアンスもあるけれど、レモンのような柑橘系の果実味も健在で驚くほどにピチピチと若かったのです。
驚いているとスタッフの方が「still babyでしょ?」と。ここからさらに10年は熟成するそうです。
まだまだ脇役的役割が多いと思っていた、セミヨンの大きな可能性に改めて気づきました。ボルドー白ワインの熟成はセミヨンあってこそなのでしょう。万歳セミヨン!!
後半はシラーズ
シラーズの畑は6つ。それら6つの畑をブドウをブレンドして造ったのがシナジーシラーズです。私のメモには「歯が紫になりそう」という酷すぎるコメントが書いてあります。私的解釈でわりとパワフルな方の豪シラーズの意味ではありますが、どのワインも強さの中に柔らかさを備えた上品なスタイルでした。
シナジーシラーズの味わいを基本に畑名ごとに飲み比べていきました。全部書きたいところですが、一番独特で一番気に入って買ってきたシラーズについて書き留めておこうと思います。
DJV(déja vu)という畑のシラーズはHunter River Burgundyというトーマス・ワインズ独自のスタイルで、ピノ好きのためのシラーズとも言われています。軽やかさを出すために、なんとセミヨンのヴェルジュが4%程ブレンドされているとのこと。
これは!まさにコート・ロティ!(フランス南部コート・デュ・ローヌ地方のコート・ロティではシラーのパワフルさを和ませるためにヴィオニエをブレンドしてもよい。)
実際に飲んだDJVは、きらきらと鮮やかな赤い色調で、チェリーのような果実味があり、ライトでスムース。なかなかないエレガントなシラーズで、私の好みにもドンピシャリでした。
他の畑名ワインも本当にそれぞれが個性的で、パワフルでゴージャスなもの、ハーブの香りが強いもの、土や森のニュアンスがあるもの、など飲み比べを存分に楽しむことができました。
ここでは白・赤1本ずつを購入。おうちでゆっくりいただきます。
Keith Tulloch Wine
2日目の午前中は、宿泊先からエルミタージュ・ストリートを10分ほど歩きキース・タロックを訪問しました。綺麗な白バラが咲き誇るクラシカルなセラードア。2階のテラス席でブドウ畑を眺めながらティスティングをしました。
家族経営の小規模生産者キース・タロック・ワインは、敷地内に醸造施設もありワインは全てそこで造っています。
基本のセミヨン、シラーズの他、ピノ・グリやシャルドネ、カベルネソーヴィニヨン、カベルネ・フランに加え、南仏の品種であるヴィオニエ、ルーサンヌ、マルサンヌも栽培。南オーストラリア州などでは南仏品種のワインも時々見かけますが、ハンターヴァレーではとっても珍しいとスタッフのお姉さんが言っていました。チーフワインメーカーのキース・タロックさんが、コート・デュ・ローヌ地方で仕事や研修をした経験が元になり、ローヌスタイルを今も熱心に研究しているのだそうです。
セミヨンもシャルドネもとっても美味しかったけれど、そんなお話を知ったこともあり一番印象に残って家にも連れ帰ったのはMRVという白ワインです。MRVは、マルサンヌ、ルーサンヌ、ヴィオニエの頭文字をとったもの。オーストラリアでこの略称を使っている生産者は他にもいて、GSMほどではなくとも割と知られているようでした。オーストラリアはやっぱり略すの好きだなぁ。
マルサンヌが47%、ルーサンヌが43%、ヴィオニエが10%の比率。それぞれ3種のブドウはフレンチオーク樽で個別に発酵したあとにブレンド。たった10%でもヴィオニエの華やかでトロピカルな香りの威力は強く、でも口に含むと酸とミネラルをしっかり感じ、その後にまろやかなコクと丸みが出てきます。3種のブドウがそれぞれの役割をしっかり担っているような、複雑でいて調和のとれた味わいです。
溌溂としたセミヨンだけでなく、めずらしいワインも見つけられた充実のセラードア訪問でした。
セラードアのお姉さんによると、収穫はあと数日で始まるとのこと。(訪問が1月15日だったのでもう始まっているはずです。)「Crazyな季節がやって来るわ!」と言いながらもウキウキした様子のお姉さんを見て、私もあと数か月後には飲める2021年のワインが本当に楽しみになりました。
ワイン産地に足を運ぶと一本のワインの重みやありがたみをより強く感じます。大地の恵みに、ワイン造りに携わる人々の努力に感謝して、今日も美味しくワインをいただきたいと思います。
またワイン旅に行きたいよ~!!