2021年冬、しばらくぶりの感染拡大によりロックダウンとなったシドニーよりワイン日記を書いています。不要不急の外出が突如禁止された夜、「ワインはエッセンシャルだ」と近所のボトルショップが閉店時間を延長させていました。
仕事を終えて帰宅した夫と私はまた来たかロックダウン…と意気消沈。まずは元気を出さねばと、大事にとっておいたワインを野菜室からガサゴソ掘り出して乾杯しました。昨年のオレンジ旅行で買ってきたリースリングです。
Philip Shaw Riesling experimenting 2016
2016年産、5年経過した分だけペトロール香がしっかり感じられます。豪リースリングの名産地クレアヴァレーのものよりミネラリーな印象は控えめで、果実味のあるふんわりタイプ。美味しくて優しく、疲れを癒す麗しのリースリング。
フィリップ・ショーはワイン旅の最後に行ったワイナリー。シドニーでは買えなそうだからとこのリースリングを連れて帰ってきました。やはりもうセラードアでも完売だったので、飲めて良かったです。(ということを確認しに見に行ったフィリップ・ショーのウェブサイトで飲みたかったヴィオニエの新ヴィンテージがリリースされていて、それだけでは送料がかかるからとか理由をつけながら100ドル分のワインを注文し、またここに戻ってきました。)
ワインの裏ラベルに以下のような文を見つけたので、スイスのウェブサイトまで飛んでみることにしました。
Fermented with yeast selected by Swiss friend of Phillips. Called the Sleeping Beauty yeast, it was discovered in a bottle of 1895 Rauschling...still alive.
Sleeping Beauty yeast?なにこれ気になる~!!!!
眠れる森の美女酵母の謎
このワインは、フィリップさんのお友達スイス人が選んだ酵母で発酵され、その酵母の名前が「眠れる森の美女」。眠れる森の美女酵母は1895年産のロイシュリングのボトル内で発見されて、、、まだ生きている!
とのことですので、一つずつ調べていきました。まず訪れたのはこのワイン酵母を管理しているswiss wineyeastのウェブサイトです。
swiss wineyeastによると、この酵母は2008年に永い永い眠りから目覚め、113年ぶりにワイン造りに使用されたそうです。スイスのチューリッヒ湖畔にワインの専門家が集まり、過去113年の間にロイシュリングから造られた白ワインを試飲する会が開かれました。その会合に参加したアグロスコープ研究所(農業研究機関)のユルク・ガフナ―教授が後日、貴重な生きた6種類のサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を1895年産のワイン瓶内から発見。その中から1895Cという菌株を使い発酵実験を行ったところ、非常に優れた発酵特性を持っていることが分かったそうです。
はい!サッカロミセス・セレビシエってなんですか?
ワイン造りに欠かせない酵母で……あわわわ、これは要勉強。
とにかくむかーしむかしのワインの中から奇跡的に取り出された酵母が大変優秀だったので、現代にも使おう!永い眠りから目覚めたからSleeping Beautyと名付けよう!と蘇ったようです。もしかしたら調べてないだけで、いろんな古酒からいろんな菌株が見つかる可能性があるってことですよね。
あと一つ気になるのがこの酵母が発見された「ロイシュリング」という白ブドウで造られたワイン。残念ながら飲んだことがないのですが、Swiss Fine Wineによるとロイシュリングについては以下の説明。
ランダウ地方(ラインラント・プファルツ州)の古いドイツ品種で、かつてはバーデン=ヴュルテンベルク州、アルザス州、スイス北部に広く分布していた。Räuschlingの名前は、その密生した葉を通り抜ける風の音を意味する動詞rauschenに由来すると考えられる。ロイシュリングは、中世のヨーロッパでよく見られたグアイとサヴァニャンの自然交配種であることが鑑定により判明している。今日、ロイシュリングはその原産地からほとんど姿を消し、事実上スイス(チューリッヒ、サンガル、シュヴィーツ)でしか見られない。そのワインは軽やかで、祖先から受け継いだと思われる良い酸味があり、繊細な柑橘系の香りがする。
ロイシュリングはなんだかリースリングに似た雰囲気なので、リースリングと眠れる森の美女酵母は相性が良いのかもしれません。
ちなみにこの眠れる森の美女酵母=1895Cは、スイスかリヒテンシュタインにお住まいの方はオンラインショップで購入できます。500gだと80スイスフラン(約9,600円)、125gだと25スイスフラン(約3,000円)です。
乾燥酵母なので温水(37°C– 40°C)で15分間再水和し、必要な発酵温度まで果醪でゆっくりと冷却してからタンクに追加すればいいそうです。使用料は白も赤も1ヘクトリットルあたり10〜20gです。1895C酵母は、スパークリングワインやフルーツ蒸留酒にも適しています。ってここまで書いてあるなんて親切。
オーストラリア・オレンジのリースリングにこの酵母を使ってみるというフィリップさんの実験=experimentingだったこのワイン。大変美味しく楽しくいただきました。ワイン酵母のウェブサイトを初めてじっくり見て気になることがわらわら出てきたので、ロックダウン中の自習課題にしたいと思います。
みなさま、stay safeでワインを楽しみましょう。